
シヴァ神を祀るヒンズー圏の四大寺院のひとつ、パシュパティナート。5世紀に建立された後、歴代のマッラ王朝君主によって改修がくり返されて来ましたが、聖地そのものはシヴァリンガ(Shiva Lingam、シヴァ神の力の象徴とされるご神体)が発見された数千年前から存在していたと考えられています。
パシュパティナート寺院(Pashupatinath Temple)はバグマティ川の両岸に端を発し、長きに渡って建て増しされてきました。聖なる川・バグマティはカトマンズからタライに流れ下った後にガンジス河に合流し、そのままベンガル湾に流れ込むヒマラヤ源流にあたることから、この寺院はヒンズー四大寺院のなかでも「頭部」に位置する重要史跡と位置づけられています。さらにヒンズー思想ではバグマティに聖浄の力を認めており、ここで沐浴することで一切の罪は浄化されるとされているため、来世の輪廻転生を思い、ここで荼毘に付されることを強く望む教徒が後を絶ちません。
パゴダ様式の本塔は屋根に金箔、四方の壁には銀箔が施され、至るところに伝統木彫が施されています。本塔の周りには、ヒンズー教、仏教両方に奉献された聖堂や伽藍や僧院等が建てられ、聖地を守るように取り囲んでいます。
バグマティ川沿いにしつらえられた架台の上で、ヒンズー教徒が荼毘に付されているのを目にすることができます。パシュパティナート本塔内の聖所にはシヴァリンガが据えられ、シヴァ神の乗り物とされているナンディ(Nandi、雄牛)が、ご主人さまを待つかのように本塔に向かって安臥する姿の彫像が置かれています。本塔にはヒンズー教徒以外が足を踏み入れることは固く禁じられており、実際に見ることはできませんが、同様なシヴァリンガとナンディの組み合わせられた内祠はあちらこちらに置かれていますので、おおかたの想像はできると思います。また敷地内にはシヴァの化身・カーリー(Kali)を祀ったグヘシュワリ寺院(Guheshwori)を始め、数多くの聖堂や寺院が建立されています。ただしほとんどの寺院が本塔と同様、ヒンズー教徒以外は立ち入り禁止となっています。
シヴァ神を奉るシヴァラトリ(Maha Shivaratri)大祭は春に行われ、ネパール国内のみならず、何千という世界中のヒンズー教徒が、この大祭を祝うために遠路はるばるパシュパティナートを訪れます。
パシュパティナート周辺は一大聖地となっているため、主要な敷地の外にもたくさんの寺院や聖堂が建立されており、その数は500をゆうに超えています。シヴァ信仰やヒンズー思想、仏教徒の融合等にご興味のある方は、これらを訪ねて歩くのも参考になるでしょう。
パシュパティナート寺院は、ネパールに7つあるユネスコ世界遺産のひとつですが、今なおその本来の目的である野辺送りをもくもくと続けています。人の目に触れない荼毘が主流の国々からこの寺院を訪れる方々は、恐らく人生で初めて、遺体が火葬されていく様相を目の前でまざまざと直視することになります。人が亡くなるということ、肉体と魂ということ、死ぬということ、そして生きるということ。死生観に関するありとあらゆる想いがわき上がり、この世に生きているということを忘れてしまう時間が、あなたに訪れることでしょう。
パシュパティナート寺院の日課法要
文化施設や博物館というと血の通わない資料や物品を陳列しているイメージが先行しますが、パシュパティナートは世界遺産と言いながら、今なお生きて躍動する宗教的信仰的バイタリティの核であり、その法要は連日、朝から晩まで、多くの信者を呼び寄せて、もくもくと続けられています。主な日課法要を以下にご紹介しておきますので、訪問の際の参考にして下さい。
上述した特例日のほか、満月の夜のアーラティ・祭事も見ものです。特に裏手のキラテシュワル寺院(Kirateshwar)で行われる奉納管弦祭は、必見の祭事と言って良いでしょう。